神僕engage

07

 丁寧な手順で参拝を済ませた女子高生、熾葵ちゃんは社務所の人気者だった。

「久しぶりだねえ。風邪ひいてない?大丈夫?」
「この通り元気ですよー。受験終わるまで気合入れて気を付けないと」
「今日は気分転換?」
「うん。あんまり詰めたら逆に駄目になりそうで」

 多分、普通に、常連さん。高校3年生で受験を控えているから、ここ数ヶ月来てなかったみたいで。その数ヶ月の間に俺が『終宵』になってた、ってことみたいだ。アケとメイが戻ってきたらもっと詳しい話も聞けるだろうけど、今のところ帰ってきそうな気配はない。こんな日に限って。
 そもそもこの子は何で俺のことが見えるのか。霊感があるとかそういうやつ?いやでも、俺も前の『終宵』が見えたからこうなってんだっけ。いやいやでも、神社にいる人たちに今の俺の姿は見えてないし、多分前もそう。俺も別に霊感なんかなかったし。
 あの子は、何だ?
 本人に直接聞きたいけど、俺と話すと彼女は一人で喋っている変な子になる。それはちょっと良くない。さてどうしたものかと思っていると、熾葵ちゃんの視線が俺の方を向いた。すぐに逸らされたけど。……何だ?

「ところで神社、何か雰囲気変わった気がするんですけど何かありました?」
「ああ……、まあ、最近静かだからそれでかな」
「静か?」
「うん。終宵様が穏やかなのかな。夏頃まではちょっと荒れてるかも、と思ってたんだけど」

 そう言って笑う宮司に、へえ、と呟いた熾葵ちゃんの表情は少し硬い。荒れてたと言われてるのは多分前の『終宵』のことだろう。アイツ元気なのかなあ。ちょっと喋っただけだし、詳しいことなんて何も知りはしないけど。人間だった頃の俺の人生、だいぶ詰んでたと思うんだけどな。もうあんま覚えてないや。

「もしかしたら代替わりされたのかもねえ」
「ああ……」
「え」

 宮司の一言に納得したような声を出す熾葵ちゃんとは全く逆の声が出た。代替わり。終宵が俺に代わったことを知ってるのか。じゃあやっぱり、終宵はその時々で入れ替わってきたのかもしれない。今の俺のように。じゃあいつか、俺も誰かと入れ替わるんだろうか?ちょっと考えてみたけれど、今は想像がつかない。

「……今日ちょっとゆっくり神社見回ってから帰ってもいいですか?」
「もちろん。寒くない?気を付けるんだよ」
「はあい」

 宮司の言葉に素直に頷いた熾葵ちゃんの視線が俺を向く。あ、これついてこいよってことだ。何か話してくれるつもりなんだろうか。
 社務所から出た熾葵ちゃんを追い掛けて外に出る。彼女が吐いた息が白く立ち上って、外の寒さを実感した。