神僕engage

閑話

 冬の冷たい陽射しが柔らかに本殿を照らして。ふわ、と欠伸をひとつ。

「んん、よく寝た……」
「あれ。おはようあるじ」
「おはようございます、あるじさま」
「うん、おはよう」

 ひょこ、ひょこ、と本殿を覗き込む神使二人にひらひらと手を振れば、丁寧な礼が返ってくる。そのままおいで、と手招きすれば、入ってきた二人は恐る恐る本殿に足を踏み入れ、そのまま正座で眼前に座した。

「今日は何日?」
「一月の七日です。ゆっくりなさいましたか?」
「初めてにしては文句も言わずによくやってたよ」
「そうかそうか。うんうん、じゃあゆっくりさせてもらった分、残りは頑張ってあげようね」

 一月はどうしても忙しい。最も多忙な時期が終わったとはいえ、神社に祀られている以上は人間が考えた行事に付き合うことも重要だ。神事が神の為になるかと言えばこちらとしては疑問の残るところだが、信仰の強くないこの時代に多少なりとも現世との繋がりになるのは悪いことではない。
 何よりこの神社の『御利益』というものは、特殊なので。

「あ、お言いつけ通り、あの子には会ってませんよ」
「あの子は勘が鋭いからなあ。二人とも素直だから、聞かれたら話してしまうだろう」
「あるじはもっと信用してくれてもいいと思うんだけどなー。半年くらい経つけど今んとこバレてないだろ?」
「前みたいに毎日会ってたらバレてるよ」
「有明はちょっとお馬鹿なので……」
「あ!?黎明お前だってちょっと抜けてるだろうよ!?」
「はいはい、喧嘩しないの」

 笑いながら、視線を鳥居の側へと移す。毎日のように参拝にくる女性の姿が見えて、神使二人は一礼すると本殿の外へと出て行った。ややあってからん、と小銭な音。

 いつもありがとうございます、終宵様。


 小さな小さな心の声を拾って、『終宵』は微笑む。どういたしまして、と言ってあげられるのは、彼女の願いがどれだけ真摯だったか知っているから。
 基本的に、人間の願い事に神は関わるべきではない。祈って、願って、それが届くほど真摯になれる人間など少なくなって久しい。それでも彼女はしっかりと願い続けていて、だから聞き届けた。あの時は十数年ぶりに力を使うことになって、たまには使わないと忘れてしまうなと思ったものだ。

「さて、ゆっくり休ませてもらったから、今度はゆっくり休ませてあげないとね……」

 よし、よし。
 虚空を撫でるように手を動かして、ゆっくりと立ち上がる。  

 穏やかな一日が、今日も始まる。