神僕engage

05

 神社暮らしに飽きてきた。

「ひま」
「まあこの時期は参拝者の方も少ないですからね」

 俺がつい口からこぼしたぼやきに、メイが苦笑いしながら応じてくれる。そう、人が来ないんだよなあ。いやまあ、神社なんて全く来なかった俺が言うのもあれだけど。いつものおばあちゃんと、たまに御朱印をもらいにくる人、くらい。それも平日は少なくて、大体週末だ。そりゃそうか。
 まあ、暇で飽きてきた、というよりは俺が神社暮らしに慣れてきた、と言った方が正しいのだろう。まだまだお祭りや行事があるから覚えることはある、と言われてはいるものの、とりあえず『今』は時間がある。散策したくても神社から出るのは無理だしなあ。

「『終宵』はこういう時どうしてた?」
「あるじさまですか?まあ大体だらだらしてらっしゃいましたから」
「参考にならねえ……」
「七五三はここにはあんまり来ませんからねえ。その代わり年末年始は大忙しになりますから。今のうちにゆっくり休んでおくのも大切なお仕事です」
「まあ、そりゃそうか」

 何で年末年始、って聞かなくてもそれくらいは分かる。初詣だ。たまに神社で働いている人たちの話題にも上っている。少しずつ用意は始まっているらしい。
 初詣、どれくらい人が来るんだろう。まあ境内が人で埋まって動けない、みたいなことはなさそうだけどなあ、ここの神社。

「つか初詣のときって俺何すんの?」
「いつもと変わりませんよ。しっかり『見て』ください」
「疲れそう……」
「疲れますよ。いつもよりたくさん話しかけられるので、結構しっかり『聞こえる』ようになるかもしれませんね」
「新人代理には手厳しいすぎない?」
「とはいえ、あるじさま、戻ってこられませんし。代理のあなたに頑張っていただくしかありません」
「まあねえ」

 多分、前の『終宵』はもう戻ってこないだろう。
 アケもメイも俺のことを代理と呼ぶけれど、俺はきっとこのまま『終宵』で居続けることになる。前の『終宵』と同じように、代わってくれる人がいるなら話は別だけど、まあ、俺は今んとこ人生なんてこりごりなもので。何で前の『終宵』が俺みたいなのとでも代わりたかったのか、今のところさっぱり分からない。
 神様でいるのに飽きたのか、疲れたのか。それが分かるのは前の『終宵』だけで、今の俺では分かりそうにもない。割と自由気まま、な気もするけど。神社から出られないこと以外は。

「お暇なら今日はお休みください。英気を養うのも大事なことですし」
「ん-、そうしよっかなあ」

 穏やかな天気だし、心地好く眠れそうな気はする。悩みつつ青く澄んだ空を見上げて、俺はぱちり、瞬いた。